最新機能を追いかけるより、「面倒くさい」を一つ任せてみよう

AIの話をすると、一定数のオッサンが急に腕を組む。

「便利なのは分かるけど、俺らの仕事は人間関係やからな」

この言葉、半分は正しい。

営業も経営もマネジメントも、最後は人間関係である。ただし、残りの半分には少々問題がある。

人間関係が大切だからといって、議事録まで人間が作る必要はない。
お礼メールに30分悩む必要もない。
Excelの数字を老眼で追いながら、「たぶん前年より悪いな」とつぶやく必要もない。

そこはAIに任せても、人間味は減らない。むしろ、本当に人間がやるべきことへ使える時間が増える。

AIは、人間の代わりになる道具というより、オッサンから「地味に面倒な仕事」を引き剝がしてくれる道具なのだ。

昔のAIは物知り。今のAIは、だんだん部下に近づいている

少し前までの生成AIは、「質問すると文章で答えてくれる、やたら物知りな人」だった。

ところが現在は、資料を読む、ネットで調べる、表を分析する、画像を作る、音声で会話する、プログラムを書くといったことまで、同じAIがこなすようになっている。

さらに大きな変化が「AIエージェント」だ。

これは、質問に一回答えて終わるのではなく、

「競合を調査して」
「違いを表にまとめて」
「提案書の構成を考えて」
「たたき台の資料まで作って」

という一連の仕事を、ある程度まとめて進めるAIである。

実際、企業ではAIが問い合わせ対応や資料作成だけでなく、複数の工程をまたぐ業務にも入り始めている。OpenAIが紹介する事例では、顧客の要望から動く試作品を短時間で作ったり、大量の商品データを修正したり、問い合わせ業務を自動化したりする活用が進んでいる。
OpenAI:BraintrustのCodex活用事例
OpenAI:Wayfairの業務活用事例

要するにAIは、「答える箱」から「仕事を前に進める相棒」へ変わりつつある。

ただし、たまに自信満々で間違えるところまで、妙に人間の部下っぽい。

オッサンはAIに不利なのか

新しいデジタル機器となると、若者のほうが有利に見える。

確かに操作には慣れている。新しいアプリを触るスピードも速い。

しかし、仕事でAIを使うとなると、話は少し違う。

AIに良い仕事をさせるには、

  • 誰に向けたものか
  • 何が問題なのか
  • どこまで任せるのか
  • 何を確認しなければならないか
  • 最終的に何を実現したいのか

を伝えなければならない。

これは機械操作というより、部下への仕事の頼み方に近い。

つまり、現場経験が長く、失敗例も知っていて、「ここを雑にやると後で揉める」という勘を持つオッサンは、実はAIと相性がいい。

若者がAIに「格好いい企画を考えて」と頼む横で、オッサンはこう頼める。

「50代の取引先社長に説明する。専門用語は減らす。メリットだけでなくリスクも書く。A4一枚で、最後に次回面談への流れを入れて」

地味である。

しかし、AIからすれば圧倒的に仕事がしやすい。長年の経験は、そのままAIへの指示書になるからだ。

メールや議事録、表計算、資料作成をAIで効率化する中年男性
メール、議事録、表計算、資料作成。AIに任せられる仕事は、思っているより多い。

まずは「ゼロから作る」をやめてみる

AI初心者が、いきなり業務を完全自動化する必要はない。

まず試してほしいのは、「ゼロから作らない」ことだ。

例えば、こんな使い方がある。

1.メールやLINEの下書きを作らせる

「断りたいけど関係は悪くしたくない」
「支払いを少し待ってほしい」
「久しぶりのお客様に連絡したい」

オッサンの仕事には、内容よりも言い回しに困る連絡が多い。

事情、相手との関係、希望する着地点をAIに伝えれば、角の立たない文案を作ってくれる。最後に自分の言葉へ直せばよい。

2.会議のメモを整理させる

箇条書きのメモや文字起こしを入れて、

「決定事項」
「未決事項」
「担当者」
「期限」

に分けてもらう。

会議中は一生懸命メモを取ったのに、翌日見ると暗号になっている——そんな悲劇を減らせる。

3.資料の“最初の60点”を作らせる

企画書、提案書、ブログ、SNS投稿、研修資料。

一番しんどいのは、真っ白な画面を前に最初の一行を書くことだ。

AIに構成と下書きを作らせ、人間は「違う」「弱い」「もっと具体的に」と直していく。ゼロから60点までをAIに任せ、60点から90点を自分で仕上げるのである。

4.数字を読ませる

売上表や経費一覧を渡して、

「前年と比べて悪化した項目」
「利益を圧迫している要因」
「経営者が確認すべき質問」

を出させることもできる。

数字の最終確認は必要だが、見るべき場所を絞るだけでも大きな時短になる。

5.分からないことを“分かる言葉”で聞く

AIの便利なところは、何度聞いても嫌な顔をしないことだ。

「中学生にも分かるように」
「たとえ話で説明して」
「俺が勘違いしそうな点も教えて」

と頼めばよい。

部下には聞きにくい。子どもにはもっと聞きにくい。そんな質問こそ、AI向きである。

AI時代に必要なのは、プロンプトの呪文ではない

ネットを見ると、「最強プロンプト100選」のような情報が山ほど出てくる。

もちろん、便利な型はある。

ただ、本当に大切なのは難しい命令文を暗記することではない。

次の5つを伝えれば、たいていの仕事はかなり改善する。

  1. あなたは誰として考えるのか
  2. 誰に向けて作るのか
  3. 何を達成したいのか
  4. 守る条件は何か
  5. どんな形で出してほしいのか

例えば、

「あなたは中小企業の経営コンサルタントです。従業員10名の会社の社長に向けて、採用がうまくいかない原因を説明してください。専門用語を避け、原因を3つに整理し、明日からできる対策まで提案してください」

これだけでも、単に「採用について教えて」と聞くより、ずっと使える答えになる。

AIへの指示が上手い人とは、パソコンに詳しい人ではない。目的と条件を整理して話せる人なのだ。

メールや議事録、表計算、資料作成をAIで効率化する中年男性
メール、議事録、表計算、資料作成。AIに任せられる仕事は、思っているより多い。

ただし、AIを“酔った先輩”くらいには疑っておく

AIは便利だが、全面的に信用してはいけない。

もっともらしい間違いを言うことがある。古い情報が混ざることもある。法律、税務、医療、投資などでは、間違いが実害につながる。

個人情報や会社の機密資料を、利用条件を確認せず入力するのも危険だ。

AIとの付き合い方としては、

「話は早い。アイデアも多い。でも、たまに記憶が怪しい先輩」

くらいに思っておくとちょうどいい。

使える提案は採用する。数字と固有名詞は確認する。重要な判断は専門家にも確かめる。

AIに判断を丸投げするのではなく、判断材料を集めさせるのである。

実際、世界ではAI活用の拡大と同時に、透明性、安全性、個人情報、AIリテラシーに関するルール整備も進んでいる。EUではAI法の適用が段階的に始まり、企業側にも「便利だから使う」だけではない管理が求められている。
欧州委員会:AI Actの概要

オッサンがAIを使う意味

AIを使う目的は、若者に置いていかれないためではない。

流行についていくためでも、SNSで「AI使ってます」と言うためでもない。

自分にしかできない仕事へ、もう少し時間を使うためだ。

お客様の表情を見る。
部下の変化に気づく。
家族と話す。
新しい商売を考える。
昔の失敗を、次の判断に生かす。

こうしたことは、今のところAIよりオッサンのほうがうまい。

AIに仕事を奪われるかどうかを心配する前に、自分が長年奪われてきた時間を、AIから取り返してみてもいい。

最初から使いこなす必要はない。

今日一つだけ、面倒な仕事を頼んでみる。

「この文章、もう少し感じよくして」

その程度で十分だ。

オッサンのアップデートは、最新版への総入れ替えではない。古い機能も残しながら、便利な機能を一つずつ追加していくものだ。

腰も記憶力も、昔ほど無理は利かない。

だからこそ、使えるものは使ったらいい。

AIは若者だけの未来ではない。

経験を持て余し始めたオッサンにとって、なかなか気の利く新入りなのである。

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会員限定のあとがき

公開記事では書ききれなかった本音や、もう少し踏み込んだ話をまとめています。

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