――バースは確定。でも掛布もサトテルも大山も入れたい。オッサンの夜は長い。

夏である。

プロ野球はオールスターの季節を迎え、テレビをつければ甲子園では高校球児が汗だくになって白球を追いかけている。

こちらも負けじと汗をかいている。

ただし理由は違う。

風呂上がりに缶チューハイを飲んでいるからである。

そんな夏の夜。

阪神戦のニュースを見ながら、ふと思った。

「俺が見てきた阪神タイガースでBEST9を組んだら、どうなるんやろ?」

こういうことを考え始めると、オッサンは危ない。

誰に頼まれたわけでもない。

選んだからといって阪神球団から電話がかかってくるわけでもない。

それでも真剣になる。

気がつけば晩酌のアテより、木戸と矢野の比較に時間を使っている。

夏の夜というのは、実に恐ろしい。


僕の阪神は、1985年から始まった

僕にとって最初の阪神の記憶は、1985年だ。

まだ子どもだった。

テレビの前で、親父がものすごい勢いで喜んでいた。

正直、当時の僕には優勝の重みなんて分かっていなかったと思う。

ただ、

「阪神が勝つと、親父はこんなに喜ぶんや」

ということだけは覚えている。

そして何より強烈だったのが、あのバース、掛布、岡田。

伝説のバックスクリーン3連発。

今みたいにYouTubeで何度でも見られる時代ではない。

だからこそ、テレビで見た一つひとつの映像が妙に頭に残っている。

バースが打つ。

掛布が打つ。

岡田まで打つ。

子ども心に、

「阪神って、めちゃくちゃ強いやん」

と思った。

……その認識が、後に大きな間違いだったと知ることになる。


まさかあんなに負けるとは思わんかった

そこからやってきたのが90年代である。

いわゆる阪神暗黒時代。

子どもの頃に1985年を見てしまった僕は、阪神とは基本的に強い球団だと思っていた。

ところが。

負ける。

まあ負ける。

春先に、

「今年はいけるんちゃうか」

と思わせる。

ゴールデンウィークくらいには、

「まあ、まだこれからや」

となる。

梅雨が明ける頃には、

「来年やな」

となる。

阪神ファンだけ暦が一年早い。

夏の甲子園が始まる頃には、順位表の下の方が妙に落ち着く。

定位置という言葉を、プロ野球で初めて学んだ気がする。

それでも応援するのが阪神ファンである。

亀山と新庄の「新亀コンビ」に夢を見た。

藪が投げれば、

「今日は勝てるかもしれん」

と思った。

マイク仲田にも妙な期待をした。

平塚も好きだった。

和田豊の渋さも好きだった。

チーム全体を見たらしんどいので、

好きな選手を個別に応援することで精神を保っていた。

今思えば、あれは阪神ファンなりのセルフケアだったのかもしれない。

1985年に父親と阪神の優勝を喜ぶ少年、90年代の低迷期を耐える青年、2003年の優勝を酒で祝う大人の阪神ファンを描いたイラスト
1985年は親父が万歳していた。90年代は「来年こそ」と耐えた。そして2003年、ようやく自分の酒で乾杯した。

野村、そして星野。阪神が少しずつ変わっていった

そんな阪神に外からやってきたのが野村克也監督だった。

すぐに強くなったわけではない。

でも、

「なんか阪神、変わろうとしてるな」

という空気はあった。

そして星野仙一監督。

選手も変わった。

球団も変わった。

ファンの空気も変わった。

迎えた2003年。

僕はもう子どもではなかった。

酒も飲める歳になっていた。

そして初めて、

大人として阪神優勝の美酒を飲んだ。

いやあ、うまかった。

1985年に親父が万歳していた理由が、ようやく分かった。

18年かかった。

長い伏線回収である。


そして今。阪神は「普通に強い」

最近の阪神を見ていて、ときどき不思議な気持ちになる。

普通に強いのである。

これが一番怖い。

昔の阪神ファンからすると、勝っているだけで若干落ち着かない。

「ほんまに大丈夫?」

と疑ってしまう。

大山がいて。

近本がいて。

佐藤輝明がいて。

森下がいて。

若い選手が育って、投手陣もいて、毎年普通に上位を争う。

昔なら一人出てきただけで、

「10年安泰や!」

とスポーツ新聞が騒いでいたレベルの選手が何人もいる。

ええ時代になった。

というわけで。

ここまで阪神と一緒に歳を取ってきた僕が、晩酌しながら歴代BEST9を考えてみることにした。

もちろん異論は認める。

というか、

異論しかないと思う。


捕手 木戸か、矢野か、城島か

いきなり難しい。

僕の原体験なら木戸克彦。

1985年の優勝メンバーというだけで強い。

あの時代の阪神を語るなら木戸は外せない。

でも、2003年以降の阪神を考えると矢野燿大も外せない。

キャッチャーとしての安定感。

勝負強い打撃。

何より強い阪神の中心にずっといた印象がある。

そこに城島健司まで入ってくる。

メジャー帰りの城島は華があった。

打てる捕手としての破壊力なら、そら魅力的や。

ただなあ。

僕の阪神BEST9という意味では……

矢野かなあ。

木戸、ごめん。

まだ一人目やのに、もう疲れてきた。


一塁手 これはバース

ここは揉めへんやろ。

ランディ・バース。

終了。

と思ったけど、大山悠輔も入れたい。

こういうところで世代が混ざってくる。

大山の何が好きって、派手すぎないところである。

毎年ちゃんと仕事する。

文句も言わん。

四番を打てと言われたら打つ。

後ろを打てと言われたら打つ。

守備もする。

阪神という球団で、これを長くやるのはなかなか大変である。

ただ。

バースを外す勇気は僕にはない。

一塁・バース。

大山はベンチでめちゃくちゃ重要な顔をして座っていてほしい。


二塁手 まあ岡田でええか

岡田彰布。

選手として1985年。

監督として2005年。

そしてもう一度阪神を頂点へ。

阪神人生が濃すぎる。

選手だけで選ぶべきなのだが、こちらの記憶にはどうしても監督の岡田まで混ざってくる。

「そらそうよ」

まで聞こえてくる。

セカンドは岡田。

ここは比較的すんなり決まった。

晩酌もまだ二杯目なので判断力がある。


遊撃手 これは鳥谷しかおらん

ショートは鳥谷敬。

これはかなり固い。

あの安定感。

毎日いる。

毎日出る。

毎日ちゃんとしている。

阪神という、普通にしているだけでも何かしら騒ぎが起きる球団で、長年淡々とショートを守り続ける。

それだけでも偉業である。

平田勝男も好き。

めちゃくちゃ好き。

でもBEST9なら、

ショート鳥谷。

ここはオッサン会議、満場一致。

出席者一名やけど。


三塁手 掛布か、サトテルか

問題はここからである。

掛布雅之。

僕らの世代にとっては、もう「ミスタータイガース」という言葉そのもの。

あのフォーム。

あのホームラン。

あの存在感。

普通なら掛布で決まり。

ところが。

サトテルがおる。

佐藤輝明。

あの規格外のホームランを見るとなあ。

甲子園の浜風とか関係なしに飛ばすもんなあ。

「こんなん昔の阪神におったら毎日新聞一面やったで」

と思う。

掛布を取るか。

サトテルを取るか。

いや待て。

サトテルをライトに回したらええんちゃうか。

そう思った瞬間、さらなる地獄が始まる。


右翼手 真弓、森下、サトテルが渋滞

真弓明信。

これは入れたい。

めちゃくちゃ入れたい。

僕の中では阪神史上でもトップクラスに「カッコいい阪神の選手」である。

あの真弓が一番打者として出てくるだけで強そうやった。

ところが現代阪神には森下翔太がいる。

これまたええ。

打つ。

強気。

華がある。

なんというか、

阪神の選手なのに遠慮がない。

これは素晴らしい。

昔の若手阪神選手なら、ちょっと活躍しただけで翌年フォームを崩していた。

森下にはその心配をあまり感じない。

そこにサトテルをライトへ回す案まで浮上。

もう外野の会議が紛糾してきた。


中堅手 新庄か近本かいな!

そしてセンター。

新庄剛志。

僕ら暗黒時代阪神ファンの希望。

チームが負けても新庄が何かやってくれる。

ホームランを打つ。

ファインプレーをする。

敬遠球を打つ。

急に引退すると言う。

とにかく新庄がいるだけで面白かった。

暗黒時代を生き抜けた理由の何%かは、間違いなく新庄である。

しかし。

近本光司がおる。

これが困る。

走る。

打つ。

守る。

毎年ちゃんと活躍する。

阪神ファンからすると、一番慣れていないタイプである。

「今年も近本は普通にやるやろ」

と言える安心感。

昔なら考えられへん。

新庄か近本。

これは選べん。

酒をもう一杯入れる。


左翼手 金本は外されへん。でも生え抜きも入れたい

レフトは金本知憲。

2003年以降の阪神を語るなら、この人を外すわけにはいかない。

鉄人。

四番。

連続フルイニング出場。

広島からやってきて、阪神そのものの空気を変えた選手だったと思う。

金本が来てから、

「阪神でも勝ち続けてええんや」

という雰囲気になった気がする。

だからBEST9なら金本。

……なんやけど。

ここまで書いて、急に思う。

生え抜き、もうちょっと入れたいな。

BEST9を考えていると、阪神ファン特有の謎の生え抜き愛が出てくる。

別にFA選手が嫌いなわけではない。

むしろめちゃくちゃ助けてもらっている。

でも、

「できたらウチで育った子も入れたって」

という親戚のおっちゃんみたいな気持ちになる。


ということで暫定BEST9

捕手 矢野燿大

一塁 バース

二塁 岡田彰布

遊撃 鳥谷敬

三塁 掛布雅之……いや佐藤輝明……

右翼 真弓明信……いや森下……

中堅 新庄剛志……いや近本……

左翼 金本知憲

……。

全然決まってへん。

なんならBEST9なのに候補が12人くらいいる。

深夜0時12分、晩酌しながら阪神タイガース歴代BEST9の候補をノートに書き出して悩む中年男性のイラスト
キャッチャーで悩み、サードで止まり、センターで完全に迷子。時計を見たら0時12分。

野手だけ考えてたら12時過ぎたがな

時計を見る。

0時12分。

嘘やろ。

野球選手を並べていただけで、一日が終わった。

しかもまだ投手を一人も選んでいない。

江夏はどうする。

村山は。

小林繁は。

藪も入れたい。

井川もおる。

能見もおる。

メッセンジャーもおる。

藤川球児は先発ちゃうし。

下柳も捨てがたい。

最近の投手まで入れたら、もう明日の仕事に影響が出る。

あかん。

寝よう。

阪神タイガースのBEST9。

答えなんかたぶんない。

世代によって違うし、見始めた時期によって違う。

数字だけならもっと合理的に選べるのだろう。

でもこういうものは、

「俺はこの選手が好きやった」

でええと思う。

それが野球の楽しいところやし、オッサンになってからの晩酌には、これくらいどうでもいい大論争がちょうどいい。

この記事を読んだ阪神ファンのアナタも、ぜひ一度やってみてほしい。

たぶん三塁あたりから揉め始める。

そしてセンターで止まる。

気づけば酒が進んでいる。

くれぐれも翌日の仕事に支障が出ない程度に。

僕はもう寝ます。

投手は……明日考えよ。

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ちなみに、この日の晩酌のお供は「寶(宝)焼酎ハイボール レモン」。<br /> <br /> 甘さがかなり控えめで、食事しながら飲みやすいのがええところ。野球を見ながら枝豆でもつまんで、ああでもないこうでもないとBEST9を考える夜には、こういう飾らん缶チューハイが妙に合う。<br /> <br /> 派手さはない。でも、それがいい。<br /> <br /> 阪神でいうたら、毎年ちゃんと仕事してくれる渋いレギュラーみたいな存在です。

SECRET

会員限定のあとがき

公開記事では書ききれなかった本音や、もう少し踏み込んだ話をまとめています。

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